芸術・文学

作中では、絵画や音楽などの芸術作品や、文学作品もいくつか紹介されている。主人公の桂は大学の文学部美術科課程で油絵を専攻しているし、父親の影響で洋画、洋楽が好きだし、本好きでもある。内に閉じこもりがちな性格を反映しているが、それらを通して話題が広がったり、友人との交流を深めたりもしている。

絵画

桂が大学の文学部美術科課程に通っていることもあり、作中、画家の話題や、美術館や画材展に行くエピソードが取り上げられている。その際には、極小サイズだが、画家の代表的な作品の模写が挿入されている。例えばマネや、ミュシャ、リャドなど。

他に、桂をはじめとする美術科生の卒業制作も、作中に登場する。実際にあるものではなく、オリジナルの作品であるはずなので、こういうものはどうやって思いつくものだろうと感心してしまう。
例えば桂が2回生のときの学祭では、4年生の一人が卒業制作として、自身をモデルに「モナ・リザ」をパロディした作品が描かれている。

また、桂自身の卒業制作の際には、同級生の中で賞を取った作品がいくつか紹介されている。
学年で最も画力がある、という前置詞とともに、大賞に選ばれた作品を描くというのは、作者はどんな気持ちなのだろう、と考えてしまう。
描いているのは結局、作者である木村紺氏自身である。
小さいコマというハンデがあるにせよ、また何か見本があるのかもしれないが、
「講師陣も舌を巻くデッサン力」
「持てる技術をあますところなくみせつけた」
などというコメントの横に自ら絵を描くのは、たとえ画力があったとしても、私だったら気後れしてしまうな、と思う。
ただ、こういったコメントがあるから、キャラクターが作者から離れて、実在の人物のような、実際にあった出来事のような感覚に陥るのである。桂自身の目で見たものを、そのまま紙面にしているかのような。そういう演出が、非常に巧みであると思う。

『河童のスケッチブック(妹尾河童 著)』という本は、英研の仲間と鍋をするという話の中で登場する。扁炉(ピェンロー)という中国の鍋料理が、本の中で紹介されているそうで、それを再現する、という話である。
実は私も、この話に触発されて、扁炉をつくったことがある。
干し椎茸の戻し汁を出汁にして、白菜や肉などを入れ、最後に胡麻油を回し入れる。
食べるときにはポン酢などは使わず、出汁に塩と一味を適量入れたものをつけ汁にする。
最後は卵を使わず雑炊で。べったら漬がよく合う。
シンプルで素材の味が生きていて、本当にものすごくおいしい。
その上、干し椎茸を事前に戻しておくことさえ忘れずにしておけば、材料を揃えるのも準備も比較的簡単である。
椎茸と、胡麻油が嫌いでなければ、ぜひぜひ試していただきたい。
(逆に、椎茸や胡麻油が苦手な方にとっては、受け付けない味だと思う)
amazon『河童のスケッチブック(妹尾河童著)』
クックパッド「扁炉」